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人工海馬

ちょっと古い話ですが、「人工海馬」の話を所内ゼミで聞いたので、その感想です。

この記事で紹介されているやつです。
記憶障害を救う、シリコンチップの人工海馬 | WIRED VISION

海馬のスライスの CA3 と呼ばれる部位への入力と出力の時系列を取り出し、
解剖学的に知られている CA3 のリカレントな神経回路を考慮に入れた
モデルを作ってパラメタフィッティング。(ようするに教師あり学習。)
未知の入力時系列に対する出力時系列を高い精度で予測できるようになった。
(ここはちょっと驚きと言えば驚きです。)
つまり海馬 CA3 スライスの機能(といえるのか?)を人工的に再現させることができた。
この調子で将来は海馬全体の機能を再現するモデルを構築し、
人工海馬として生体に埋め込みたいとバーガー教授は考えているようです。

そりゃむちゃでしょう。
そう思う理由を何点か指摘しておきます。

まず海馬の可塑性を無視し、入出力関係だけでもこのアプローチで
再現できるか考えてみます。
スライス内にニューロン n 個あったとしてシナプスは O(n) 個なので、
それが学習すべきパラメタの数だとすると、
O(n) 個の訓練データを集めれば学習できるかもしれません。
しかしスライスではなく海馬全体だと、 O(n^2) 個のシナプスがあるので、
訓練データも少なくとも O(n^2) 必要になり、学習が難しくなりそうです。

可塑性を考慮に入れるともっと問題は難しくなります。
海馬の最も重要な機能はエピソードの記憶だと思います。
海馬の「記憶する」という機能を再現させるためには、
「どういう状態のときにどういう入力を入れるとどういう出力がでて
状態はどう変化するか」
という訓練データを集めなければなりません。
これは隠れた状態の推定が必要になるので問題はいっそう難しくなります。

不可能だとは言いませんが、海馬の中をほとんどブラックボックスとみなして
「入力と出力の組を使って教師あり学習する」という隔靴掻痒なアプローチよりは、
普通の海馬研究者がやっているように解剖学、電気生理、遺伝子ノックアウトなどの
直接的方法で海馬の機能を解明してモデル化する方が
はるかに近道で確実だと思います。実際、解明はかなり進んでいます。

以上の問題をすべてクリアして海馬のモデルができたとして、
最後にチップと生体の配線の問題が残ります。
海馬をそれなりに機能させるには、何百万本か分かりませんが大量の
神経回路と電気回路の間の接続が必要になると思われますが、
現在はそのような技術はありません。(せいぜい数十チャンネルの多電極。)

多チャンネルの安定した接続技術は確実に必要とされているので、
そっちの技術開発に注力してくれるといいな~と思います。

コメント

Re: 後日談

詳しいことはわかりませんが、
ラットの CA3-CA1間の相互作用のパターンを複製する「人工海馬」を作成、
CA3-CA1 間は、薬理学的にブロック。
人工海馬をオフにすれレバーの押し方の記憶を思い出せないが、
オンにすれば記憶を取り戻すと言うことでしょうか。
そんなことが本当にできるというのは、驚きです。
(ただ、CA3 など海馬自体の機能を再現させているわけではないので、
損傷した海馬の機能を補う真の人工海馬までにはかなり遠いとは思います。)

後日談

カーツワイルの新著を見ていたら人工海馬の後日談(2011)があったので、検索してみました。
http://viterbi.usc.edu/news/news/2011/restoring-memory-repairing.htm
ご参考まで...

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