文献紹介:「対属性に基づいた視覚の認知と記憶」

先日のオープンラボで、偶然筑波大の学生さんからちょっと驚きの論文を
教えていただいたので紹介します。
筑波大 システム情報工学研究科 森田先生の PLoS ONE にのった論文です。

Morita M, Morokami S, Morita H, 2010 Attribute Pair-Based Visual Recognition and Memory. PLoS ONE 5(3): e9571. doi:10.1371/journal.pone.0009571
http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0009571

脳の中では視覚的な情報を属性2つずつペアで表現しているという仮説を提案し、
3つの認知科学的実験で検証しています。

この仮説によれば、「落ちる赤いりんご」は、
「赤いリンゴ」「落ちるりんご」「落ちる赤いもの」の3つに分解されて
脳内で表現されていることになります。
そして、あらゆる認知プロセスは、複数の対属性どうしの
インタラクションによって行われると森田さんは考えているようです。
かなり大胆でユニークな仮説ではないでしょうか?
3つの実験は、この仮説を証明するとまでは言えないものの、
支持する結果になっています。

どうしてこのような仮説を思いついたのかについては、
論文のイントロダクションに書かれていますが、
そこを読んだだけではよく理解できなかったです。
バインディング問題に関する過去の知見を、
計算論的な観点を踏まえて考察した結果出てきた仮説のようです。

(ちなみに、バインディング問題の現状を知りたい方は、
日本神経回路学会誌の特集が参考になると思います。
「JNNS : Vol. 16 (2009) , No. 1」
http://www.jstage.jst.go.jp/browse/jnns/16/1/_contents/-char/ja/


さてさて、最初に「ちょっと驚きの論文」と書いたのはは、
この仮説が、BESOMモデルと整合性があるからです。

BESOMモデルによれば、大脳皮質の各領野は、
独立な情報を表現する2次元SOMの集合体です。
例えば視覚情報が A, B, C, D という4つの独立な成分を持っていると仮定します。
一次視覚野では、視野内の特定の領域の視覚情報は、
AB と CD 、 AC と BD 、 AD と BC のいずれかのペアを表現する、
2つの独立な2次元SOMで表現されるはずです。
属性がもっとたくさんあっても、一次視覚野全体では、
様々な属性のペアを表現する2次元SOMが存在するはずです。
これはまさに対属性仮説の主張と一致します。

対属性仮説とBESOMモデルのように、
脳のまったく違う現象を説明するために独立に作られた2つのモデルが
自明でない共通点を持っているならば、
2つのモデルは真実である可能性が高いはずです。

というわけで、この対属性仮説の論文は、BESOMモデルの妥当性の
根拠にもなると思いました。
機会があれば森田先生とぜひディスカッションしてみたいと思います。

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