労働の機械化は社会を豊かにするのか

労働の機械化は長期的には社会全体を豊かにすると思うが、
短期的にはむしろ貧しくなる可能性がある。
それを防ぐ1つの方法が雇用規制だと思う。

ここでは論点をわかりやすくするために話をいろいろ単純化する。
例えば、理想的な富の再配分がなされることを前提とし、
社会全体の富の総和についてだけ考える。
また、労働市場は十分に流動的で、年収500万円分の労働は
ちょうど500万円の価値のある物かサービスを生み出していると仮定する。

年収500万の労働者の労働を年間リース代490万のロボットで代替すると、
経営者は10万円得するが、労働者は500万の収入減で、
社会全体では490万分損をする。
これは本来作る必要のないロボットを490万で作るという
余分な労働が発生したから、と理解できる。
つまりこの場合、機械化により社会全体では生産性がかえって下がる。

もし機械化で解雇された労働者が
あらたに年収500万の仕事を得ることができれば、
社会全体では10万円利益が増える。
つまり、機械化以前と比較して、誰かが年間10万円分だけ余分に
物やサービスに支出することができるようになる。

ここまでの話は単純すぎる。
まず第一に、解雇され転職すれば年収が下がる可能性が高い。
転職して年収が上がるならば、機械化で解雇される前に
自発的に転職しているはずである。
第二に、490万の機械は
490万以上の価値のある生産活動を行える可能性がある。

そこで、
A:解雇された労働者の転職による収入減
B:機械が生み出す利益と機械化のコストの差
の2つの値を考える。
ある仕事に関してB<0 の場合は、その仕事の機械化は時期尚早である。
技術の進歩で B>0 となったとき、経営者は仕事を機械化し、労働者を解雇する。

A<B ならば機械化で得られる利益で労働者の収入減を補償しても余りがあり、
社会全体が豊かになる。
A>B ならば機械化で社会全体が貧しくなる。

長期的にはBは技術の進歩により限りなく大きくなる。
一方Aの値には上限がある。国内の労働者の収入の総和はだいたいGDPと等しい。
したがって、社会全体でのBの値がGDPを超えるようになれば、
そのあとは技術の進歩でBが増えるほど社会はより豊かになっていく。

問題はそうなる前の過渡期の段階である。
現代においてAはおそらく0よりかなり大きな値である。
(絶対にそうともいいきれないが。)
一方で、ある労働について B>0 になれば経営者は直ちに機械化を進めるので
ほぼ確実に A>B となり、
現代において機械化は社会全体を貧しくするということになる。

これは合成の誤謬の一例である。
個々の経営者が利益を追求し合理的に判断すると社会全体が貧しくなる。
そこで政府によるなんらかの規制が必要となる。

1つの方法が雇用規制である。
話を単純化し、機械化による一切の解雇や減給を禁止する場合を考える。
機械化による労働者の所得補償の義務は事実上経営者が負うことになる。

そうすると A>B である間は、例え B>0 であっても、
経営者にとっては人間に働いてもらった方が得になる。
A<B になれば、経営者は余剰人員を増やしてでも仕事を機械化しはじめる。
いずれの場合も、個々の経営者が利益を追求して合理的に判断しても、
社会全体が貧しくなることはない。
この方法にはもう1つ利点がある。雇用ずみの労働者を有効活用するために、
価値ある新たな仕事を企業が自発的に創出する努力をする。

現在の日本でも雇用規制が行われている。
ところがそれには大きな穴がある。
定年退職で人員が減っても新規採用しないことで実質的に人員を削減できる。
これでは、(短期的には)機械化により社会全体が貧しくなってしまう。

さて、ではどうすればよいだろう。
有効な新しい雇用規制の方法を考えるべきかもしれない。
何もしなくても少子高齢化による労働不足により A=0 に近づき、
機械化による減収の問題は起きなくなるかもしれない。
Bを大きくすることで過渡期を一刻も早く終わらせるのも
1つの方法かもしれない。

コメント

No title

>機械を導入した企業の利益は配当や株価上昇を通じてその所有者(人間)へ帰属するのですから、機械の増加に伴ってアーリーリタイヤメントする人間が増えるだけなのでは?

するどい指摘ありがとうございます。

収入の多い人と少ない人の差が増えると不公平だが、
1人の人間の一生のうち、収入の多い時期と少ない時期があるだけなら、
不公平でもないので、そういう社会になるかもしれませんね。

一方で、有能な人には働いてもらわないと社会としては損失なので、
収入の多い人ほどアーリーリタイヤメントしにくい方法で
富の再配分をする社会制度になるという可能性もあると思います。

No title

機械を導入した企業の利益は配当や株価上昇を通じてその所有者(人間)へ帰属するのですから、機械の増加に伴ってアーリーリタイヤメントする人間が増えるだけなのでは?

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