スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

脳における思考の役割とその実現機構についての考察

動物にとって思考の役割とは何だろうか。
思考を実現するためにはどのようなメカニズムが必要だろうか。

思考の役割の1つとして考えられるのは「行動のシミュレーション」である。
例えば動物が移動していて小川にぶつかったとする。
その時に取り得る行動としては、飛び越える、水の中を渡る、
またいでいける場所まで遠回りする、などいろいろあり、
それぞれ速いが危ない、冷たい、安全だが時間がかかるなど
メリットやデメリットがある。
人間は頭の中で、過去の経験に照らし合わせてそれぞれの可能性を試してみて、
メリットが大きくデメリットの小さい最適な行動を1つ選択してから
実際にその行動を起こす。
この程度の「思考」能力であれば、少なくとも哺乳類も持っているのではないかと
私は推測する。
動物にとって「行動のシミュレーション」の機構が生存に有利なのは明らかである。

「行動のシミュレーション」の機構は、
人間に似た知能を持つロボットを作る際にも必須となる機能である。
(機械学習の用語を使って説明するならば、
報酬期待値を最大化する行動を選択するにあたって、
隠れ変数を周辺化する厳密計算は計算量が多くて現実的ではないが、
獲得した生成モデルを使ったモンテカルロシミュレーションであれば
計算量が少なく現実的である。
時間に余裕があればシミュレーションの時間を長くする
(すなわちじっくり考える)ことで精度を上げることができる。)

「行動のシミュレーション」のためには少なくとも下記の機構が必要である。

1.外界のシミュレーターを教師なしで獲得する機構
2.シミュレーションモードと実行モードを切り替える機構

1については、大脳皮質において、ベイジアンネットワーク、
非線形暗中信号源分離、時系列学習、 deep learning などの
機械学習技術の組み合わせで実現されていると私は考えているが、
それについては別の機会に説明する。

脳全体のアーキテクチャの理解という観点で興味深いのは2である。
この「モード切り替え機構」を正しく機能させるためには、
意外とたくさんの仕掛けが必要になりそうである。
例えば、少なくとも以下のような要求仕様を満たさなければならない。


・思考中はその行動を実際に起こしてはいけない。
(がけを飛び越えられるかどうか検討中に、本当に飛び越えてしまうと危険。)

・思考の結果を行動価値関数の更新に用いてはいけない。
(エサを食べる行為を想像するだけで満足してしまう生物は生き残れない。)

・思考結果の外界の状態を真実の外界と混同してはいけない。
(想像のなかのエサに対して実際に手を伸ばして食べようとしても無意味。)

・思考中も現在の姿勢もしくは運動を維持しなければならない。
(立ちながら、歩きながらでも思考は可能。)


これらの機能は、大脳皮質の機能だけから自然に「創発」されるとは
到底考えらない。むしろ、脳のアーキテクチャの根幹をなす重要な機構として、
複数の組織にまたがった様々な作り込みが必要であるように思われる。

具体的には脳内に以下のような機構が必要だろう。


・思考中はその行動を実際に起こしてはいけない。
→ 前頭前野から他の領野への命令の遮断。

・思考の結果を行動価値関数の更新に用いてはいけない。
→ 線条体の学習の停止。

・思考結果の外界の状態を真実の外界と混同してはいけない。
→ ??

・思考中も現在の姿勢もしくは運動を維持しなければならない。
→ 前運動野や他の運動関連領域の自律的活動の維持。



このように複数の組織の動作を瞬時にドラスティックに変化させる
機構が脳内にあるだろうか。

そのような機構の候補の1つとして、
セロトニン神経系について、検討を開始したい思う。

有田秀穂「脳内物質のシステム神経生理学」 p.171 によると
「中脳腹側被蓋野DA細胞は縫線核5-HT神経から抑制性入力受けている」
とある。
もしセロトニン神経の活動がドーパミン細胞のTD誤差信号の出力を停止するならば、
その間、線条体での行動価値関数の更新は停止するだろう。

また、最近の研究によるとラットが「我慢」しているときに
セロトニン神経が活動するという。
Miyazaki K, Miyazaki KW, Doya K.
Activation of dorsal raphe serotonin neurons underlies waiting for delayed rewards.
J Neurosci. 2011 Jan 12;31(2):469-79.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21228157

人間の場合は、何かの行動を起こさずに我慢しているとき、
脳の中では「もし我慢せずにその行動を起こしたらどうなるか」が
しきりにイメージされるという経験をだれもが持っているだろう。
同じことがラットの脳の中でも起きていることは容易に想像できる。

これらの知見は、セロトニン神経の活動が、
「脳内シミュレーションモード」を表すフラグである可能性を
示唆している。

以上の考察はあくまで現時点での私の考えで、
今後より多くの文献を調査するとともに、
何らかの実験で検証していく必要がある。
スポンサーサイト
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。