減速した1人あたりGDPの加速ペース

下記ブログで、21世紀は20世紀よりも進歩が加速しているとは言えないのではないか、と書かれています。
収穫加速の法則批判 「減速する加速」 - シンギュラリティ教徒への論駁の書

その主張には私も同意で、それを裏付けるもっと明確な証拠があります。

科学技術の進歩は労働生産性を向上させるので、
1人あたりのGDPが科学技術の水準の客観的な目安になると思います。
では、1人あたりのGDPはどのように増えてきたでしょうか。

例えば下記ページに、 1600-2003年の1人あたりGDPの推定値の推移のグラフがあります。("World Per Capita GDP" というグラフ。)

Charting Historical Global Per Capita GDP - Kruse Kronicle

1800年から1975年の間は、すさまじい勢いで加速しています。
ざっくりいって、 1800->1900->1950->1975 というふうに、値が倍になるまでの時間が半分になっていき、双曲線的な(あるいはそれ以上の)ペースで増えています。
もしその加速ペースが続けば 2000年ごろに値は無限大になります。

しかし実際には、 1975 ごろ以降は加速しなくなり、
だいたい直線のペースでしか増えなくなったようです。

1人あたりのGDPの両対数グラフは下記ページの下の方にあります。
こちらもご覧ください。現在から数十年前にグラフの傾きが大きく減っています。
Estimating World GDP


人口増加の減速と1人あたりGDPの減速があまりタイムラグなくほぼ同じころに起きたというのは、意外でした。

「収穫加速の法則」と人口増加

両対数グラフで直線になる関数はべき関数です。指数関数ではありません。
両対数グラフ - Wikipedia

指数関数は、片対数グラフで直線になる関数です。
片対数グラフ - Wikipedia


ところで世界人口の推移は、
片対数グラフよりも両対数グラフでプロットした方が直線に近くなります。

多くの人は世界人口は指数関数的に増えてきたと思っているかもしれません。私もそうでした。でも実際は違います。驚くべきことに、長い間、現在までの時間に反比例して増えてきました

今から x 年前の世界人口は、おおざっぱにいって1000億を x で割った値になります。この関数はべき関数の1つです。
例えば下記ページに片対数グラフと両対数グラフが載っていますので、ご確認ください。
生態学第25回

1960 年に、もう少し正確な経験式を作った人がいました。
その式によると、世界人口は 2026年11月13日(金) に無限大に発散します。
この式は「最後の審判の日方程式 Doomsday equation」と呼ばれたらしいです。
この式は 1970 年代までは成り立っていました。
(その後、幸か不幸か、人口増加は減速しつつあります。)
von Foerster, H., Mora, P.M., & Amiot, L.W. (1960). Doomsday: Friday, 13 November. A.D. 2026.Science, 132 1291-1295.
http://www.bioinfo.rpi.edu/bystrc/courses/biol4961/Doomsday.pdf


さて、カーツワイルという人が収穫加速の法則というものを提唱しているそうですが、下記ページに載っている「人類史上のパラダイムシフトとなった重要な出来事」は両対数グラフですね?

収穫加速の法則 - Wikipedia

このグラフからは、「重要な出来事」は現在までの時間に反比例する頻度で発生する、ということが読み取れます。
(指数関数的には増えていません。もっと急激な増加です。)
このグラフの特異点は「現在」で、「重要な出来事」の発生頻度が無限大になります。

重要な出来事のグラフはつっこみどころ満載のグラフですが、
仮に人類出現以降に関してそのグラフが正しいとすると、
単純に「重要な出来事は人口に比例して起きる」という法則の方がもっともらしいように私には思えます。

ちなみに、「人口を定数倍増やす発明が人口に比例にして起きる」と仮定して微分方程式を解くと、人口を表す式はある時点までの時間に反比例する式になり、「最後の審判の日方程式」とほぼ一致します。
このこともまた、「重要な出来事は人口に比例して起きる」という法則を支持する証拠と言えるでしょう。


以上のことはあまり知られていないように思います。


なお、収穫加速の法則の英語版 Wikipedia のページには、同様のことがちゃんと書いてあります。
Accelerating change - Wikipedia

以前書いた下記エントリもご参考までに。
BESOM(ビーソム)ブログ 今から x 年前の人口は (1000億 / x) 人
BESOM(ビーソム)ブログ 人口シンギュラリティ 2026年11月13日(金)
BESOM(ビーソム)ブログ 人力による収穫加速の終焉


ジップの法則が成り立つ理由

ジップの法則とは、
単語の出現頻度は、単語を出現頻度順に並べた時の順位に反比例する、
という経験則です。言語によらず成り立つようです。
ジップの法則 - Wikipedia

ジップの法則が成り立つ理由が長年疑問だったのですが、
英語の wikipedia に現在わかっていることが少しだけ書いてありました。
Zipf's law - Wikipedia, the free encyclopedia

アルファベットに空白文字を足したものの中から
一様分布にしたがってランダムに文字を選んで並べると、
ほぼジップの法則に従った「文章」ができるそうです。

ようするに、アルファベットの数を s とすると
n 文字の単語の出現確率は (1/s)^n であり、その個数は s^n 。
だから出現頻度 1/k の単語の順位はだいたい k 位になるというわけですかね。
なるほど。

他の分布の場合もジップの法則に従うようになるようなことが
上記ページには書いてあります。

人力による収穫加速の終焉

1960 年 Science の
人口が無限大になる「この世の終わり方程式」について、
下記ページに言及がありました。最後の日 November 13 は著者の誕生日とのこと。
Heinz von Foerster - Wikipedia, the free encyclopedia

まあ、こうやって冗談めかしでもしないと、
科学者としての正気度を思い切り疑われるほど衝撃的な式であったとも言えるかも知れません。
この式は 1970年代までは成り立っていたようで、
成り立つ理由としては、
「人口を増加させる発明者の数が人口に比例するから」という
説明がその後なされているようです。

~~~

カーツワイルの収穫加速の法則について、
まとまりがないですが思うところを書きます。

カーツワイルの重要な出来事のグラフを見た時の印象として、

・「重要な出来事」の基準がよくわからない。恣意的に選択できるのでは。
・最近のできごとほど詳しい情報が得られるから、
重要な出来事として選ばれやすい、ということはないのか。
・横軸が「現在までの時間」となっているが、何故「現在」が基準???
・グラフがきれいすぎる。
・特異点という言葉から無限大への発散を連想するが、
指数関数には特異点がないのでその2つがつながらず、釈然としない。

というふうに、疑問点が多々あり、距離を置いていました。

そして、いま気づいた問題点:

・片対数グラフで直線になるのが指数関数、
両対数グラフで直線になるのはべき関数。
「重要な出来事」のグラフは両対数グラフの直線であり、
そこには「指数関数的」な何かはどこにもない。
むしろ指数関数よりもはるかに速く、双曲線的に増加している。

・カーツワイルは、
双曲線的に増加する重要な出来事と、
指数関数的に増加するムーアの法則という異なる2つの曲線を根拠に、
定性的な収穫加速の法則を結論付けたらしい。
下記ページでの「収穫加速の法則」の定義では、定量的な明言は避けている。
収穫加速の法則 - Wikipedia

・重要な出来事のグラフの妥当性とは無関係に、
収穫加速は確かに実感とは合う。しかしそれは人口増加だけで説明がつく。

・「技術の発達が新たな技術の発達を容易にする」という側面と同時に、
「ある分野が発達するにつれて新しい成果が得られにくくなる」という側面もある。
もし重要な出来事のグラフの内容が正しいとすれば、
人口増加を加味すると、
この2つが人類の長い歴史においてずっと相殺されてきていることになる。
まったく異なる2つの要因が長い期間の間、相殺され続けてきたということは非常に考えにくい。
しかし一方で、人口増加の曲線は、人口に関してはその考えにくいことが長い間続いてきたらしいこと示している。それを踏まえると、重要な出来事のグラフの方も、実は正しいのかもしれない。

・ 1970 年代までで双曲線的な人口増加が終わったのに、
今のところ収穫加速が続いているように見える。
それは、 1970 年代に生まれた子供が成長し今も発明者として
活躍しているから、と解釈できる。
1980 年生まれの子供は現在36歳。
ぼちぼち発明者からは退く人が出てくるかもしれない。
そうすると「人力」による発明は今後は増えなくなってくることになる。

追記:
ここで書いたのと似た話は下記ページの Criticisms の中にだいたい書いてありました。
Technological singularity - Wikipedia, the free encyclopedia
Accelerating change - Wikipedia, the free encyclopedia

追記: 2016-03-04
双極線関数的 → 双曲線的 に修正。

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といったところで、本業が忙しいので、そろそろこの話題は終わりにしたいと思います。

人口シンギュラリティ 2026年11月13日(金)

人口が現在までの時間に反比例して増えてきた理由が分からないと、
きのう書きましたが、その理解に向けて少し進展しました。

人口の増加は人口の二乗に比例すると仮定します。
すると微分方程式は下記のようになるので

dy/dx = c y^2

これを下記サイトで解くと、
dy/dx = c y^2 - Wolfram|Alpha
解は下記のようになります。

y(x) = 1 / (k - cx)

これは、きのうブログに書いた
人口を表す下記経験式と一致するものになります。
ただし、現在が特異点なので k = 0 とします。
x は現在からさかのぼる年数です。

y(x) = 1000億 / x



さすがに誰か同じことを見つけているだろうと思って検索したら、
ありました。

人口増加が人口の二乗に比例することは下記論文で指摘されています。
ななめ読みしてみましたが、そうなる理由は詳しくは書かれていません。
Page 1. 84 Proc. Okla. Acad. Sci. 62:84-88 (1982)
SOCIAL ENHANCEMENT OF WORLD POPULATION GROWTH
Richard G. Fowler
http://digital.library.okstate.edu/oas/oas_pdf/v62/p84_88.pdf

人口がある時点で無限大になる(という法則に従って増えている)ことは
1960 年に発見されていたが長い間無視されてきたとのこと。
それは下記の Science 論文で、
人口が無限大になるこの世の終わりが 2026年11月13日(金)であると予言しています!!(笑)
von Foerster, H., Mora, P.M., & Amiot, L.W. (1960). Doomsday: Friday, 13 November. A.D. 2026.Science, 132 1291-1295.
http://www.bioinfo.rpi.edu/bystrc/courses/biol4961/Doomsday.pdf

幸か不幸かその後人口増加は飽和しつつあるので、
その日は何事もなく過ぎるでしょう。

ともかく、人類の歴史の長い期間の間、
人口の二乗に比例した速度で人口が増加してきたことは事実のようです。
しかし、なぜそうなったのか、理由はわかりません。

例えば人口を定数倍だけ増やすイノベーションが、
人口に比例した確率で発生し、
そのイノベーションが全人口にただちに広まると仮定すると、
人口増加は人口の二乗に比例します。

「人口を定数倍だけ増やすイノベーション」とはなんでしょうか。
人間の生存を妨げる要因(外敵、資源、環境、衛生問題など)が無数にあり、
妨害要因のどれか1つでも成り立っていれば人間は生きていけないと仮定します。
イノベーションにより要因の1つが取り除かれると、
人口は「n 個の妨害要因すべてが成り立っていない確率」に比例する量から
「n-1 個の妨害要因すべてが成り立っていない確率」に比例する量に増えます。
要するに、人口が定数倍増えることになります。

しかし、この理屈はいろいろ単純化しすぎています。
また、長い期間の間、増加の度合いの係数 c が
ほぼ一定の値で続いてきたことに対する納得のいく理屈が思いつきません。


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話は変わりますが、
爆発的な人口増加の経験式が何らかの理由で適用限界に来て、
人口増加が減速しているということは、
これまで人口に比例して起きていたイノベーションの「収穫加速」が
もはや期待できないということになります。
収穫加速の法則 - Wikipedia

カーツワイルの本は私は読んだことがなく、
カーツワイルが
「重要な出来事が起こる間隔は時間とともに指数関数的に短くなる」
と主張しているものと思っていましたが、
少なくとも下記グラフの内容はそうではないですね。
PPTCountdowntoSingularityLog - The Age of Spiritual Machines - Wikipedia, the free encyclopedia
ファイル:ParadigmShiftsFrr15Events.jpg - Wikipedia

これらのグラフからは、
「ある時代で重要な出来事が起こる間隔は、現在からさかのぼる時間に比例する」
すなわち
「ある時代での重要な出来事の発生頻度は、現在からさかのぼる時間に反比例する」
ことが読み取れます。
間隔が0になり発生頻度が無限大になる特異点は「現在」です。

だとすると100万年前から100年前の間に関してだけ言えば、
人口増加だけで収穫加速の理由が説明できるのではないでしょうか。

イノベーションが単に人口に比例して起きるということが
収穫加速の法則の正体だとしたら、
人口が飽和しつつある今後は、イノベーションが起きる頻度もこれ以上
増えなくなるということです。

ただまあ、そう悲観することはありません。
今後増えないのは「人力」によるイノベーションだけです。
遠くない将来、イノベーションを起こす主体が機械になる可能性があります。

(議論に間違いがありましたらご指摘よろしくお願いいたします。)