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ハーバード大による脳の神経回路の詳細を読み取るプロジェクト

ハーバード大による脳の神経回路の詳細を読み取るプロジェクト。
Crumb of mouse brain reconstructed in full detail : Nature News & Comment

先日、このプロジェクトの関係者の水谷氏にお話を聞く機会がありました。
脳をスライスし、解像度 4nm の電子顕微鏡で画像データとして読み取り、
ディープラーニングで細胞分別、三次元の神経回路を再構成します。
驚くべきことにこの工程のかなりの部分が自動化されています。
画像は非常に高解像度で、
シナプスの中にあるシナプス小胞のつぶつぶまでよく見えます。

10月から 1mm^3 の範囲を半年ほどかけて読み取るプロジェクトが始まります。
2ペタバイトの画像データになるそうです。

このデータを解析することで、
大脳皮質の機能単位であるコラム構造の詳細が明らかになるので、
私としては非常に期待しています。
ただし、膨大なデータの解析は容易ではありません。
現状の解析アルゴリズムと計算機リソースでは、
1mm^3 の範囲の神経回路の再構成まではできないようです。
多くの情報系研究者に、このプロジェクトに関心を持っていただきたいと思います。
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ヒトと類人猿の違い

前回の記事にコメントをいただきましたので、
新しい記事にしてお返事いたします。

>話がそれていたら申し訳ありません。
>
>以下のように2つの訓練から、4つの推論が訓練せずに成立することを、刺激等価性が成立したと言えるそうです。
>
>訓練1:AならばB
>訓練2:BならばC
>
>推論1:BならばA(対称性:訓練1に対する)
>推論2:CならばB(対称性:訓練2に対する)
>推論3:AならばC(推移性)
>推論4:CならばA(等価性)
>
> これらの推論はヒト以外の動物では、一部の例外を除き成立しません。しかし「AばらばB」の逆(BならばA)は、論理的に真とはならないので、ヒトのみがこのような非論理的推論を行っていいます。しかしそれゆえに高度な認知機能を獲得したとも予想されます(言語と思考を生む脳 より)。
>
>私はこれが気になってます。

コメントありがとうございます。

「言語と思考を生む脳 (シリーズ脳科学 3)」は、
遅まきながら現在取り寄せ中です。

「非論理的推論」は
「非演繹的推論」さらには「帰納推論」と言い換えてよいでしょうか。
「非論理的推論」という表現だと不合理というニュアンスがありますが、
「帰納推論」ならば生物にとっては生存に有利な推論であると思います。
そして、それは機械学習の用語で言えば、
事前知識を使った汎化能力の向上ということになると思います。
こういう方向で、要求仕様と実現メカニズムについて
ちょっと考えてみたいと思います。
(実現メカニズムとしては、例えば、
経験をいったん海馬に蓄えて、それをもとにして類推を広げるような機構を
思い付きます。)


人間と動物の脳の機能の違いは、刺激等価性の話以外にも
共同注視、再帰的な文法の獲得などいろいろあったと思います。
網羅的にリストアップされた文献があれば欲しいところです。

神経解剖学的にはヒトと類人猿の脳にそれほど違いはないと認識しています。
このことは逆に、脳のアーキテクチャを推定するよいヒントになりそうです。
仮にヒトと類人猿の脳のアーキテクチャに違いはまったくないと仮定すると、
機能に違いが出る原因としては
1.脳のアーキテクチャではなく、パラメタの違い。
2.脳のアーキテクチャではなく、脳幹などに作り込まれている「習性」の違い。
が考えられると思います。

日本神経科学大会(9/11-9/13 横浜)

パシフィコ横浜で開かれる日本神経科学大会の日程が近づいています。
9月11日(木)~9月13日(土)です。
Neuroscience 2014

学部生は参加費無料のようです!
参加登録のご案内|Neuroscience 2014

通俗的な「脳科学」ではない、本物の神経科学に触れる貴重なチャンスです。
この機会にぜひ顔を出してみてはいかがでしょうか。

異分野の学会に参加する主目的は、最新の研究成果を知ることではありません。
むしろ、その分野の基礎知識を手っ取り早く身に着けることにあります。
座学で教科書を読むだけでは得られない膨大な情報が、
学会に参加することで得られると思います。


発表は基本英語ですが、日本人が発表しているポスターなら
日本語で説明してもらえます。

また、教育講演が日本語で行われます。
システム論的研究の一例として個人的には下記講演をお勧めします。
MT野・MST野の研究の話だと思います。

9月12日(金)
EL-4 動くものを眼を動かして見るー眼球運動研究でわかること
座長:伊佐 正(自然科学研究機構 生理学研究所)演者:河野 憲二(京都大学大学院医学研究科 認知行動脳科学分野)


異分野の講演は最初はちんぷんかんぷんだと思いますが、
重要そうなキーワードを1つでも多くメモし、
空き時間にネットで検索する、ということ会期中に集中してやれば、
かなり基礎知識がつくと思います。

「カンデル神経科学」日本語版!

神経科学のもっとも有名な教科書、通称「カンデル」の日本語版が近々出るようです。

カンデル神経科学|MEDSi メディカル・サイエンス・インターナショナル

神経科学を専門にする人には英語版の方がよいのかもしれませんが、
他分野の人で神経科学を詳しく勉強したい人にとっては、
この日本語版は必携になるのではないでしょうか。

参考までにに古い版の英語版の書評はこちらをご覧ください。
Amazon.co.jp: Principles of Neural Science: Eric R. Kandel, James H. Schwartz, Thomas M. Jessell: 洋書

最新の第5版の英語版はこちら。Kindle版もあるようです。
Amazon.co.jp: Principles of Neural Science, Fifth Edition (Principles of Neural Science (Kandel)): Eric Kandel, James Schwartz, Thomas Jessell, Steven Siegelbaum, A.J. Hudspeth: 洋書

脳における思考の役割とその実現機構についての考察

動物にとって思考の役割とは何だろうか。
思考を実現するためにはどのようなメカニズムが必要だろうか。

思考の役割の1つとして考えられるのは「行動のシミュレーション」である。
例えば動物が移動していて小川にぶつかったとする。
その時に取り得る行動としては、飛び越える、水の中を渡る、
またいでいける場所まで遠回りする、などいろいろあり、
それぞれ速いが危ない、冷たい、安全だが時間がかかるなど
メリットやデメリットがある。
人間は頭の中で、過去の経験に照らし合わせてそれぞれの可能性を試してみて、
メリットが大きくデメリットの小さい最適な行動を1つ選択してから
実際にその行動を起こす。
この程度の「思考」能力であれば、少なくとも哺乳類も持っているのではないかと
私は推測する。
動物にとって「行動のシミュレーション」の機構が生存に有利なのは明らかである。

「行動のシミュレーション」の機構は、
人間に似た知能を持つロボットを作る際にも必須となる機能である。
(機械学習の用語を使って説明するならば、
報酬期待値を最大化する行動を選択するにあたって、
隠れ変数を周辺化する厳密計算は計算量が多くて現実的ではないが、
獲得した生成モデルを使ったモンテカルロシミュレーションであれば
計算量が少なく現実的である。
時間に余裕があればシミュレーションの時間を長くする
(すなわちじっくり考える)ことで精度を上げることができる。)

「行動のシミュレーション」のためには少なくとも下記の機構が必要である。

1.外界のシミュレーターを教師なしで獲得する機構
2.シミュレーションモードと実行モードを切り替える機構

1については、大脳皮質において、ベイジアンネットワーク、
非線形暗中信号源分離、時系列学習、 deep learning などの
機械学習技術の組み合わせで実現されていると私は考えているが、
それについては別の機会に説明する。

脳全体のアーキテクチャの理解という観点で興味深いのは2である。
この「モード切り替え機構」を正しく機能させるためには、
意外とたくさんの仕掛けが必要になりそうである。
例えば、少なくとも以下のような要求仕様を満たさなければならない。


・思考中はその行動を実際に起こしてはいけない。
(がけを飛び越えられるかどうか検討中に、本当に飛び越えてしまうと危険。)

・思考の結果を行動価値関数の更新に用いてはいけない。
(エサを食べる行為を想像するだけで満足してしまう生物は生き残れない。)

・思考結果の外界の状態を真実の外界と混同してはいけない。
(想像のなかのエサに対して実際に手を伸ばして食べようとしても無意味。)

・思考中も現在の姿勢もしくは運動を維持しなければならない。
(立ちながら、歩きながらでも思考は可能。)


これらの機能は、大脳皮質の機能だけから自然に「創発」されるとは
到底考えらない。むしろ、脳のアーキテクチャの根幹をなす重要な機構として、
複数の組織にまたがった様々な作り込みが必要であるように思われる。

具体的には脳内に以下のような機構が必要だろう。


・思考中はその行動を実際に起こしてはいけない。
→ 前頭前野から他の領野への命令の遮断。

・思考の結果を行動価値関数の更新に用いてはいけない。
→ 線条体の学習の停止。

・思考結果の外界の状態を真実の外界と混同してはいけない。
→ ??

・思考中も現在の姿勢もしくは運動を維持しなければならない。
→ 前運動野や他の運動関連領域の自律的活動の維持。



このように複数の組織の動作を瞬時にドラスティックに変化させる
機構が脳内にあるだろうか。

そのような機構の候補の1つとして、
セロトニン神経系について、検討を開始したい思う。

有田秀穂「脳内物質のシステム神経生理学」 p.171 によると
「中脳腹側被蓋野DA細胞は縫線核5-HT神経から抑制性入力受けている」
とある。
もしセロトニン神経の活動がドーパミン細胞のTD誤差信号の出力を停止するならば、
その間、線条体での行動価値関数の更新は停止するだろう。

また、最近の研究によるとラットが「我慢」しているときに
セロトニン神経が活動するという。
Miyazaki K, Miyazaki KW, Doya K.
Activation of dorsal raphe serotonin neurons underlies waiting for delayed rewards.
J Neurosci. 2011 Jan 12;31(2):469-79.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21228157

人間の場合は、何かの行動を起こさずに我慢しているとき、
脳の中では「もし我慢せずにその行動を起こしたらどうなるか」が
しきりにイメージされるという経験をだれもが持っているだろう。
同じことがラットの脳の中でも起きていることは容易に想像できる。

これらの知見は、セロトニン神経の活動が、
「脳内シミュレーションモード」を表すフラグである可能性を
示唆している。

以上の考察はあくまで現時点での私の考えで、
今後より多くの文献を調査するとともに、
何らかの実験で検証していく必要がある。
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